暗号資産のステーキングとは?仕組みや利回り相場、ステーキングのリスクなどを解説
ステーキングは近年注目を集めている暗号資産の資産活用の一つです。
本記事では、ステーキングの仕組み、メリットやデメリット、利回り(※)や、レンディングとの違いなどを解説します。これから暗号資産のステーキングを始めようと考えている方は、本記事を通じてステーキングの理解を深めて頂ければと思います。
※ 利回りについて:本文中では「報酬率」に統一して表現いたします。
暗号資産におけるステーキングとは
ステーキングとは、特定の暗号資産を保有してブロックチェーンネットワークに参加することで報酬がもらえる仕組みです。ステーキングされた暗号資産は、ブロックチェーン上のネットワークセキュリティ向上など様々なかたちでブロックチェーンネットワークに貢献します。
ステーキングで得られる報酬額は暗号資産の種類やステーキング条件によって異なるため、それぞれの特徴を理解する必要があります。
従来、暗号資産で収益を得る方法は暗号資産の価格変動を利用した売却益が一般的でした。しかしステーキングという手法が登場したことにより、暗号資産で報酬を得ることが可能になりました。
ステーキングが注目される理由 - イーサリアムのアップデート
近年ステーキングが改めて注目されていますが、その理由は2023年4月に行われたイーサリアム(ETH)のアップデート「Shapella(シャペラ)」です。Shapella(シャペラ)では、実行レイヤーのアップグレード「Shanghai(上海)」とコンセンサスレイヤーのアップグレード「Capella(カペラ)」という2つのアップデートが行われました。
前提として、暗号資産のステーキングはプルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake 略してPoS)と呼ばれるコンセンサスアルゴリズムを用いている、もしくはPoSから派生されたアルゴリズムを用いている暗号資産で可能です。
イーサリアム(ETH)は2022年9月に実施された大型アップデート「Merge(マージ)」によって、コンセンサスアルゴリズムがプルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work 略して PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake / PoS)に変わりました。このアップデートによりETHでもステーキングが可能となりました。
ただし、Mergeの時点では、ステーキングに関する問題点が残されていました。それは、ステーキングしたETHを引き出す機能が実装されていなかった点です。前述の2023年4月に実施されたShanghai(上海)アップデートにおいて、これまでステーキングしていたETHの引き出しが可能となりました。
PoSとは?PoWとの違い
プルーフ・オブ・ワーク(PoW)とプルーフ・オブ・ステーク(PoS)は、ブロックチェーンネットワークのセキュリティを維持するためのコンセンサスアルゴリズムの一種です。
PoWは、マイナーと呼ばれる参加者が膨大な計算量を費やし、ブロックチェーンの取引記録となるトランザクションを承認することで、ブロックを生成していきます。この仕組みにより、ブロックチェーンネットワークの信頼性を維持していきます。
PoWでは、マイナー同士が競い合い、最も早くブロックを承認したマイナーが報酬を得ることができます。
一方で、PoSはバリデーターと呼ばれる利用者が暗号資産を保有することで、ネットワークのセキュリティを維持する仕組みです。
PoSでは、バリデーター同士がランダムに選ばれ、選ばれたバリデーターがブロックを生成できます。ステーキングはPoSやPoSから派生したコンセンサスアルゴリズムが採用された暗号資産で行うことが可能です。
ステーキングとレンディングの違い
ステーキングとよく比較されるもう一つの手法がレンディングです。ステーキングとレンディングは、双方ともに暗号資産を活用して収益を得る手法です。ただし、両者の運用概要は大きく異なります。
ステーキングは、対象のブロックチェーンネットワークに暗号資産を預けることで報酬を得る方法で、一般的にステーキングを行うためには対象の暗号資産を一定期間ホールドする必要があります。
対して、レンディングは、暗号資産取引所やレンディングサービスなどの第三者に暗号資産を貸出すことで貸借料を得る方法です。貸出した暗号資産の活用方法はサービスによってそれぞれ異なります。一般的にはサービスプロバイダー側で再投資などの資産運用によって利息分を捻出します。
ステーキングは「暗号資産を自分で保有したまま」ですが、レンディングの場合は「暗号資産を貸出している」状態となります。このため、レンディングにおいては貸し先サービスの信頼性により、暗号資産が返済されない、いわゆる貸し倒れリスクが存在します。これは、貸出した資産が貸し先の運用不備や経済的な困難などにより、元本や利息が返済されない状況を指します。このリスクを理解し、信頼性の高いサービスを選択することが重要です。
ステーキングのメリットとリスク
これまでステーキングの概要を説明してきましたが、ステーキングにはどのようなメリットとリスクがあるのでしょうか。詳しく解説していきます。
ステーキングのメリット
売買以外の収益機会が得られる
ステーキングの最大のメリットは売買をすることなく、ステーキング報酬により収益を得られる点です。ステーキングで得られる報酬率は対象の暗号資産やその流動性、ネットワークセキュリティの強度、ステーキングの難易度などによって変わります。暗号資産によっては高い報酬率が期待できるものがある一方で、そのような高報酬率通貨はノード数の少なさによるチェーンの不安定さも気を付けるべき点として挙げられます。ステーキングにおいては、報酬率と安定性(信頼性)はトレードオフとなりやすい傾向があります。
暗号資産の保有数が増える
ステーキングを行うと対象の暗号資産が報酬として得られます。一般的に暗号資産保有数を増やすためには価格変動を利用したトレードや取引所間の価格差を利用したアービトラージなどの手法があります。このような手法は調査分析や技術習得に多くのリソースを必要とすることに加え、相場状況が大きく影響します。このため、暗号資産の保有数を減らしてしまうリスクが常にあります。
対してステーキングでは、報酬によって対象暗号資産の保有数が増えるメリットがあります。もちろん、得た報酬よりも対象通貨の価格下落の影響が大きい場合は、保有数が増えたとしても法定通貨で換算した資産全体の価値は下がってしまうため注意が必要です。
運用が簡単である 〜 ステーキングサービスを利用する場合 〜
ステーキングは、ソロステーキングと呼ばれる自分でノード構築・運営をする方法から暗号資産取引所などのサービスプロバイダーが提供するステーキングサービスを利用する方法まで様々な方法があります。
より手軽にステーキングを始められる方法は、後者のステーキングサービス利用です。ステーキングサービスは、サービス側でステーキングの各種オペレーションを代行するので利用者観点では運用の手間はほとんどかかりません。多くはサービスプロバイダが提供するアプリやブラウザ上での簡単な操作を行うだけでステーキングの利用ができます。ソロステーキングと異なり自身でハードウェアやソフトウェアなどの設備を手配する必要はありません。
ステーキングのリスクや注意点
暗号資産の価格下落リスク
ステーキングの主なリスクは暗号資産の価格下落です。
暗号資産の価値が下がればステーキング報酬の法定通貨換算の資産価値も相応に下がります。その結果、ステーキングで得た報酬よりも暗号資産の価値が下がってしまった場合、法定通貨換算した資産価値が下がってしまうリスクがあります。ステーキング利用時には相場の変動を常に念頭に置く必要があります。
一定期間のロックが発生する場合がある
ステーキングでは一定期間暗号資産を動かせなくなる設定がなされている場合があります。ロック期間と呼ばれるこの期間はステーキングした暗号資産の送金や取引ができません。ロック期間のルールは対象の暗号資産やステーキングサービスによって異なります。
ステーキングしている暗号資産の価格が大幅に下がった場合、売却をしたくても暗号資産を動かせないという状況もあり得るため注意が必要です。ロック期間については必ず事前に条件を確認しましょう。
ステーキングができる暗号資産とは
ステーキングができる暗号資産とできない暗号資産の違い
ステーキングができる暗号資産とできない暗号資産の違いは、そのブロックチェーンがプルーフ・オブ・ステーク(PoS)コンセンサスアルゴリズムを使用しているかどうかが論点となります。
プルーフ・オブ・ワーク(PoW)では、ブロックチェーンのトランザクション承認にコンピューターによる計算能力を必要とするため、ステーキングを行うことができません。プルーフ・オブ・ワーク(PoW)の代表的な通貨はビットコイン(BTC)となります。BTCではステーキングはできないため留意が必要です。
ステーキングができる主な暗号資産は以下の通り
- イーサリアム(ETH)
- テゾス(Tezos)
- カルダノ(ADA)
- ポルカドット(DOT)
- ソラナ(SOL)
- アバランチ(AVAX)
- コスモス(ATOM)
主な暗号資産のステーキングの報酬率一覧
続いて、主な暗号資産の報酬率相場を解説します。暗号資産は非常に変動性が高く、特にステーキング報酬はネットワーク状況や価格変動など、多くの要因によって変化します。同じ暗号資産であっても時期やステーキング条件によって報酬率は異なるため、あくまで一例として参照ください。利用時には必ずご自身で条件を確認してください。
イーサリアム(ETH)のステーキング相場
イーサリアム(ETH)は、ビットコインに次ぐ時価総額の暗号資産です。イーサリアムはスマートコントラクトと呼ばれる契約の自動実行機能を持った分散型アプリケーション(DApps)を開発可能なプラットフォームです。イーサリアムステーキングの報酬率は約1%~5%の水準が相場となります。
【相場】約1%~5%(年)
USDTのステーキング相場
USDTは、テザー社が発行するステーブルコインです。ステーブルコインとは、法定通貨やコモディティ(商品)などの資産に裏付けられた暗号資産です。USDTは米ドルのペッグ通貨であり、1USDTが1USDと同等の価値になるように設計されています。ステーブルコインの特徴としては価値変動が少ない点が挙げられます。USDTの報酬率相場は年間で0.6%から約9%ほどの水準となります。
【相場】 約0.6%~8.8% (年)
USDCのステーキング相場
USDCは、サークル社とコインベース社が共同で発行するステーブルコインです。USDCは、イーサリアム、ソラナ、アバランチ、トロン、アルゴランド、ステラ、フロー、ヘデラの8つのブロックチェーン上で発行されています。USDCもUSDTと同様に米ドルのペッグ通貨であり、1USDCが1USDと同等の価値になるように設計されています。USDCの報酬率相場は約0.85%~8%程度となります。
【相場】約0.85%~8% (年)
ステーキングの収益率の計算方法
年間収益率の計算方法は「年間収益÷元本」となります。例えば、年間のステーキング報酬が100円で、ステークした暗号資産の金額が10,000円の場合は、年間収益率は1%となります。
カウント方法に要注意 - APRとAPYの違い
収益率を表現する用語としてAPR(Annual Percentage Rate)とAPY(Annual Percentage ーYield)があります。ステキング提供サービスによってAPR・APYの表示は統一されておりませんので必ずどちらを表しているかを確認する必要があります。
APYとAPRの簡単な違いは複利計算を考慮するか否かです。APRは単利計算のみを考慮した収益率であり、APYは複利計算を考慮した収益率となっています。
APYは、預入れた暗号資産の年間収益率を複利計算で表したものです。一方、APRは単利で計算され、その年間収益率を表します。日利の計算方法は、APRを365で割ることで表現できます。
APYの計算式は APY =(1 + r / n)ⁿ-1 となります。rは年間の単利収益率(またはAPR)、nは年間の複利計算期間数となります。APYの収益率を達成するには、複利運用が前提となります。
ステーキングを行う際には、APRとAPYの違いを理解し、より高い収益率を得られる方法を選択することが重要です。
ステーキングのやり方
ここまででステーキングの特徴やメリットおよびリスク、収益率について解説しました。続いてはステーキングのやり方について、暗号資産取引所やステーキングサービスを使うケースを例に解説していきます。
一般的なステーキングサービスの利用の流れは以下の通りです。
- ステーキングを行いたい暗号資産を入手する
- ステーキングを行うサービスを探す
- ステーキングサービスのアカウントを開設し、暗号資産を預入れる
- 対象の暗号資産をホールドする
- ステーキング報酬を得る
ステーキングのやり方
ステーキングを行う方法は複数あります。また、それぞれの選択肢にはメリットとデメリットが存在します。以下に、代表的な方法を紹介します。
1)ソロステーキング
1つ目はソロステーキングと呼ばれる自分でノードを運営する方法です。ノードとは、ネットワークに参加するコンピューター端末のことです。この方法でステーキングを行う場合は、他のサービスプロバイダーの手数料を抜かれることがないため報酬は高い傾向となります。ただし、ノードを運営するためにはコンピューターやネットワークなどの設備や専門知識も必要であるため、ハードルが高い方法となります。
2)暗号資産取引所のステーキングサービス
2つ目は暗号資産取引所が提供するステーキングサービスの利用です。暗号資産取引所では、ステーキングを行うための機能を提供しているサービスも多く、簡単な操作でステーキングを利用できます。暗号資産取引所でウォレット管理をしている方にはステーキングのために送金を行う必要がないためリーズナブルな利用方法となります。
ただし、暗号資産取引所によっては、ステーキングを行うための手数料がかかるデメリットもあります。また、ステーキングの資産管理は暗号資産取引所に依存するため、利用する暗号資産取引所の信頼性は事前に調査をすることをおすすめします。
3)DeFi ステーキングサービス
3つ目として、DeFi(Decentralized Finance)を利用する選択肢もあります。DeFiとは分散型金融の略でブロックチェーン技術を活用した非中央集権型の金融サービスです。DeFiはプログラマティックに運営されているため中央集権型の暗号資産取引所よりも手数料が安い傾向があります。ただし、中央集権型の暗号資産取引所と比べて、一定のセキュリティリスクがある点、流動性が低くなりやすい点、ウォレット管理を自己責任で行う必要がある点など、デメリットも存在します。DeFi利用には一定の暗号資産リテラシーが必要となるため少し利用ハードルが高くなります。
4)ステーキング専門サービス / ステーキング関連サービス
ステーキング専門サービスは、暗号資産取引所以外の専門サービスプロバイダーを利用する方法です。ステーキングに関するリテラシーが低い、あるいは運営リソースが少ない場合の選択肢となり得ます。法人の場合は、暗号資産の資産活用を内部人材ではなく外部の専門家に委託するような考え方もできます。
ステーキング関連サービスについては、資産を預けるという観点で運営者の信頼性が求められます。必ず事前に信頼性や健全性について調査を行いましょう。
おわりに
本記事ではステーキングの仕組みや、具体的な方法について説明をしました。ステーキングの仕組みやメリットデメリットを理解したうえで、ご自身のスタイルに合った運用を検討しましょう。